有村は2018年頃より「ウサギも仮面を被った乙女」たちを描いてきました。彼女たちはどうして仮面を被っているのでしょうか?その理由は社会とともに変化してきた、と有村は語ります。個展「CHANGE」開催にあたり、制作の変遷と素顔を隠す彼女たちのリアルを探ります。
有村佳奈 Kana Arimura
鹿児島県出身。女子美術大学デザイン学科卒業。
2018年頃より「ウサギの仮面を被った乙女」たちを描く。
2023年は女優・シンガーとのコラボレーションやコレクター展での展示が実現。
2024年4月にはフランス・パリで初個展「SAKURA」を開催するなど、発表の幅が広がっている。
【個展】
2024年 個展「SAKURA」(JOYANA/フランス・パリ)
2022年 個展「Treasure-hunt~#宝物を探して~」(The Artcomplex Center of Tokyo)
2022年 個展「I’m ready」(tagboat/阪急メンズ東京)
2021年 個展「Color Girls」(CLOUDS ART+COFFEE/東京)
2020年 「新宿ミロード×有村佳奈アート展」(新宿ミロード) 等
【イラストレーション】
2023年 「私の唇は嘘をつく」著・ ジュリー・クラーク|訳:小林さゆり (二見書房)/ 装画
2023年 「祝祭のハングマン」著・中山 七里(文藝春秋)/ 装画
2022年 「かくも甘き果実」著・モニク・トゥルン|訳:吉田恭子(集英社)/ 装画
2022年 「御伽の国のみくる」著・モモコグミカンパニー(河出書房新社)/ 装画
等
有村佳奈 「CHANGE」
2024年8月2日(金) ~ 8月31日(土)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※オープニングレセプション:8月2日(金)18:00-20:00
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
ウサギの仮面は現代を生きるための生存戦略
――個展「CHANGE」では、動揺しながらも時代に沿って変化する女性たちに焦点が当てられます。
有村さんは2018年頃より「ウサギの仮面を被った乙女」を「夢と現」が入り混じる世界観に落とし込んで描いてこられました。2018年以降で作品はどのように変化してきましたか?
「ウサギの仮面を被った乙女」のイメージは、2018年当初は直感的な出会いでした。芸術家として生きていけたらと願い、試行錯誤しているなかで、芸術家としてアイデンティティを確立できる作品になると確信した出会いです。ですが「直感」から発生しているため「なぜ」「そうなったのか」という言語化が難しい面がありました。
「仮面を被っている状態」そのこと自体が現実味のない印象がありつつ、描き始めた当初はファンタジーのような夢の世界を題材に描くことも多かったので『夢と現』という解説が一番ピッタリ合っていると思いながらも「なぜ、登場する女性はウサギの仮面を被っているのか」という問いに対する解釈を自分の中でも探し続けていました。
2018年以降、ラフや下書きも含めると年間約200体、これまでトータル約1200体もの「ウサギの仮面を被った乙女」を描いてきました。これだけ多く描いていくと彼女たちの存在が自分の中でより確立されていきました。最初に感じていた「夢の中の存在」のようなイメージではなくなっていったのです。
また同時に、SNSの普及によって、私達は自分の実際の顔とは違う「アイコン」を当たり前のように活用するようになりました。SNS上の「アイコン」が「顔」となり、VTuberを筆頭にYoutuberや音楽アーティストらもメディアに登場する際、この「アイコン」を仮面にして登場する機会が増えました。本人自身の「顔」が映らず「2次元」のビジュアルで登場しても、私達はその存在を訝しげに見ることはなくなりつつあります。
今では個人を認識する人々の見解が広がったことで、仮面を被って「私である」と表明することが市民権を得たような印象を受けます。結果、私の絵は2018年には『夢の世界にいそうなウサギの仮面を被った乙女』から、2024年では『現代を生きるための生存戦略としてウサギの仮面を被った乙女』へと変化を遂げました。
この社会の認識の変化をどう読み解けるかと最近よく考えています。個人の認識が寛容になったとも言えるし、同時に「現実を直視したくないがためにリアルさを無くそうとしているのかもしれない。現実を、妄想世界のような非現実=夢の中にいる感覚に書き替えようとしている」という解釈もできるかもしれません。数年経つとまた新しい変化が生まれ、作品に影響を与えていく可能性も高いですね。ものの見方は何通りもできると思うので、また引き続き「解釈」を探し続ける旅は続けていこうと思っています。
少女とも女性とも異なる「乙女」という存在
――「ウサギの仮面の女性」のことを時折私の描く「乙女」と表現されていらっしゃいますが、
有村さんにとって「乙女」とはどういった存在でしょうか?
「乙女」という言葉自体には少女のような歳の若い女の子を指す意味がありますが、現代においてはどちらかというとメンタリティを表す言葉だと捉えています。例えば「あなたって”乙女”だよね」という会話は「乙女のように可愛いらしい心を持っているよね」と言う意味で使われていて、これは女性にも男性にも少女にもおばあちゃんにも性別年齢問わず使っていますよね。
また「女性」というのは性別を表す単語ですが「乙女」と表現するとその人物像に可愛らしさが加わるので好きです。この絵を描き始めた当初は「少女」を描いているわけでもなく、でも「女性」というのも味気ない。結果「乙女」と呼ぶことが自分にとってしっくりきて使うようになりました。
それに大好きな『セーラームーンR」のアニメエンディング曲「乙女のポリシー」の影響も大きいですね。あの歌詞にあるような心情を私自身が生涯失くしたくないという気持ちから、頻繁に「乙女」という言葉を活用するのだと思います。
ときに作品の解釈は後からついてくる。だから、まず手を動かす
――作品に「言葉」を添えられることがありますね。以前、描き終えた後に仕上げの感覚で作品と対話する
と仰っていましたが、対話は有村さんにとってどういった時間でしょうか?
「自分がなぜこの絵を描きたいと思ったのか」「言語化するなら、どんな言葉が似合うのか」答え合わせをするような時間です。絵を描いたままで完結したい時もありますが、鑑賞者に対して何かヒントになるような言葉を綴っておきたいという想いもあります。
――過去のインタビューでは「現実」を捉えようとして手が止まり「夢」を描こうとして手が止まった時期があったと仰っていました。いま制作のモチベーションとなっていることは何でしょうか?
今は「続けること」自体が制作するうえで一種のモチベーションへ繋がっています。
過去に制作の手が止まっていたのは「完璧な状態」を求めすぎたからです。「描きたいもの」「描けるもの」「コンセプト」全てが揃わないと優れた作品は生まれないという思い込みがありました。どれかが欠けた瞬間に手を止めていました。でも制作活動を続けていくなかで「作家自身が作るものを最初から全て理解している必要はない」と考えるようになりました。
ときに衝動的に生まれたような作品も魅力的ですよね?最初に作品の説明ができなくても、謎解きするように、時が経ってから分かる場合もあると感じるようになったからです。生きている時代の背景・社会の問題点、見えてないようで絡んでくる要素、解釈が後になって追いつく場合もあると。だからなるべく手を動かします。頭も動かすけれど、正解を捉えようとし過ぎないようにしながら、制作する手を動かしています。
後は読書したり、映画を見たり、子供と遊んだり、美味しいものを食べに行ったり、買い物したり、好きなアーティストのライブに行ったりとリフレッシュする時間を定期的にとることですかね。体験している全てのことが制作に繋がっていると思うので。
フランス・パリでの個展「SAKURA」を終えて
――今年4月、フランス・パリのGALLERY「JOYANA」で初の海外での個展「SAKURA」を開催されました。
パリでの反応はいかがでしたか?国内の反応と異なる部分や印象的だったことがあれば教えてください。
海外での個展は初めてだったので大変緊張した状態でパリに足を運びましたが、たくさんの人が来場してくれて感動しました。会話に自信はなかったのですが、サイン会を通して絵を描くことでコミュニケーションをとれたので「絵が得意で良かった!」と改めて思いましたね。
印象的だったのは、日本語を少し話せるポーランド出身の女性が、ツインテールの乙女の絵をみて、「この子はちょっと地雷系みたいですね」と言ったことです。「地雷系」という日本の若い女の子が話す最近のワードを当たり前に使って表現している!と衝撃を受けました。逆に私は普段使わないワードだったので、意味合いがスッと出てこなかったですよ(笑)
ネットが普及する以前はきっと国によってトレンドになるものは全く違っていたでしょう。でも現在はその垣根がほとんどなく、共通認識を持つものが多いなと感じました。
photo by:limagerie |
photo by:limagerie |
個展「CHANGE」に向けて
——個展に出展される新作について「新しいことに挑戦している」と伺いました。
具体的にどのような作品なのか、これまでの作品との違いや新しい挑戦について教えてください。
これまでは「仮面を被った状態の絵」を描いてきましたが、今回は人が仮面を被る瞬間を描こうとしています。人にはいろいろな側面があり、場面によって顔を変えます。物理的な意味でなくても「友人」「家族」「恋人」「仕事」「SNS」それぞれの場所で用いる仮面を持っていて、みんな役者のように顔を変えて生きています。
その、まさに変身する瞬間を切り取ってみたいと思って描いています。変化する瞬間の時間のブレ、心のブレ、を表現したいです。
――「まるで一本の映画を見たようだ」と感じてもらえるような展覧会を作り上げることが夢だと仰っておりましたが、個展のタイトルに掲げられた「CHANGE」、乙女たちが変化する様をギャラリー空間のなかでどのように表現されたいですか?
「CHANGE」とタイトルに掲げたのは「世界が急速に変化する渦の中にいる“今”」という感覚をなんとか自分なりに捉えておきたいと考え「変化」に着目することにしたからです。生きている「今」を自分なりの感覚でわかっておきたい。その手段が私にとっては絵を描くことです。様々なタッチで色々な「変化」を描いているので、今回の展示は映画で言うとショートフィルムを集めたような構成にしたいと考えています。
――最後に、これから挑戦されたいことについて教えてください。
ありがたいことに年々新しいことにチャレンジする機会をいただいています。昨年2023年は女優・ソロシンガー田村芽実ちゃんと絵画・写真インスタレーション・一人芝居を合わせた2人展を開催したり、京都のゲストハウスで展示、コレクターであるウン・インペンさんの企画・開催によるコレクション個展、今年2024年にはフランス・パリでの初個展を経験し「作品を作る」工程は一緒でも、発表する場や魅せ方のバリエーションが増えました。表現的な意味でも、発表のアプローチの仕方としても、今後も引き続き「新しい流れ」を取り入れられるように模索し続けたいです。
文責:高橋
有村佳奈 Kana Arimura |
有村佳奈「CHANGE」
2024年8月2日(金) ~ 8月31日(土)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※オープニングレセプション:8月2日(金)18:00-20:00
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
作品販売について
抽選応募期間:7月23日(火)~29日(月)
当選連絡:7月30日(火)
オンライン販売開始:8月2日(金)20:00から
EVENT
「有村佳奈個展ガイドツアー×サイン会」
開催日時:2024年8月3日(土)17:00-18:30
会場:tagboat ※入場無料・予約不要 どなたでもご参加いただけます。
作家から直接、個展や作品についてお話をしていただける機会となっております。
また作品集をご購入いただいた方には「ドローイング付きサイン」をプレゼントいたします。
「有村佳奈×木爾チレン 対談トークショー」
開催日時:2024年8月17日(土)17:00-18:00
会場:tagboat ※入場無料・予約不要 どなたでもご参加いただけます。
来場者特典:限定ポストカード
来場者特典
個展期間中にご来場されたお客様に週替わりに特典カードを配布いたします。
A ver. | 初日・オープニングレセプション
B ver. | 2~3週目(8月5日~17日)
C ver. | 4~5週目(8月19日~30日)
過去の記事はこちらから
有村佳奈 Kana Arimura
鹿児島県出身。女子美術大学デザイン学科卒業。
2018年頃より「ウサギの仮面を被った乙女」たちを描く。仮面を被ってときに愛らしく、ときに強かに映る彼女たちの姿には、どこまでも「今」のリアルが重なっている。2023年は女優・シンガーとのコラボレーションやコレクター展での展示が実現。2024年4月にはフランス・パリで初個展「SAKURA」を開催するなど、発表の幅が広がっている。
【個展】
2024年 個展「SAKURA」(JOYANA/フランス・パリ)
2022年 個展「Treasure-hunt~#宝物を探して~」(The Artcomplex Center of Tokyo)
2022年 個展「I’m ready」(tagboat/阪急メンズ東京)
2021年 個展「Color Girls」(CLOUDS ART+COFFEE/東京)
2020年 「新宿ミロード×有村佳奈アート展」(新宿ミロード) 等
【グループ展】
2022年 和心芸術祭(Gallery Jo Yana/フランス)
2022年 Art Fair GINZA(銀座三越)
2022年 タグボートアートフェア2022(東京)
2021年 カモフラージュ展(MASATAKA CONTEMPORARY/東京)
2021年 Triangle展(同時代ギャラリー/京都)
2018年 Landscapes展(ondo/大阪・東京)
2017年 「上野の森美術館大賞展」上野の森美術館/東京
2012年 「シブカル祭」渋谷パルコ PARCO MUSEUM/渋谷
等
【イラストレーション】
2023年 「私の唇は嘘をつく」著・ ジュリー・クラーク|訳:小林さゆり (二見書房)/ 装画
2023年 「祝祭のハングマン」著・中山 七里(文藝春秋)/ 装画
2022年 「かくも甘き果実」著・モニク・トゥルン|訳:吉田恭子(集英社)/ 装画
2022年 「御伽の国のみくる」著・モモコグミカンパニー(河出書房新社)/ 装画
等